■構造色とは?
身の回りには「色」を呈する様々なものがあります。大きく分けて、
(a)自分で光るもの、
(b)光を当てて色を呈するもの、の二つがあります。
(a)はレーザーやLEDなどの光源や蛍光体、炎色反応、ネオンサイン、さらには太陽などの恒星があります。夏の風物である花火は、炎色反応を利用したものです。
(b)は基本的に白色光を当てた際に特定の波長光だけが反射し、その反射光が見えるケースです。顔料や染料など、ある波長光を吸収する特性を持つ物質が含まれていると、吸収されない光が反射して色を示します。植物の葉が緑に見えるのは、葉緑素が赤と青の光を吸収し、緑色を反射するためです。したがって植物工場では、青色と赤色の光源を使うことが多いです。
一方で顔料や染料などの吸収物質を含まなくても、色を呈することもあります。周期構造を持つ場合です。周期構造を持つことで、特定の波長光だけを反射しその色を呈します。これが
「構造色」です。したがって、素材として透明な物質でも、色を出すことが可能です。実は弊社で販売しているポリスチレンも、透明な材料です。
■身近な「構造色」
構造色の一番身近な例は、CDやDVDの記録面です。虹色に輝いているのを、どなたもご覧になったことがあると思います。半導体レーザーで記録情報を読み取るために、ナノサイズのピットが無数にあいています。これに白色光が当たるとそれぞれのピットの間隔に応じた波長光が反射し、色が出る訳です。
ちなみにCDのトラックピッチは1.6um(625本/mm)、DVDのそれは0.32〜0.74um(3125〜1351本/mm)と、分光器に使われる回折格子(330〜1800本/mm)を超える細かさです[1]。したがって、かなり高性能な分光器を自作することも可能です。
天然には数多くの構造色が存在します。モルフォ蝶、玉虫をはじめとした甲虫、鳩の胸、カワセミ、クジャクの羽、宝石のオパール、アワビなどの貝殻、真珠、魚の銀色などです[2]。これらもご覧になった方が殆どではないでしょうか?
玉虫の羽 オパール宝石 貝殻
■構造色の計算式
構造色は周期構造体に光が入射し、特定の波長の光が反射することで生じます。したがってBraggの回折条件で示すことができます。X線回折の経験がある方には、おなじみの式です[3]。
例として、直径200nmのポリスチレンナノ粒子が規則正しく配列しているケースを考えます。
入射角度θ=0度の時の回折波長λを求めてみます。
球状粒子の最密充填では、空隙は30%、粒子は70%の体積を占めていますので、f=0.3です。周期構造体:ポリスチレンナノ粒子の屈折率 n1=1.6、空隙物質:空気の屈折率
n2=1.0を(2)式に代入すると、有効屈折率 n0=1.42が求められます。これを(1)式へ代入し、さらにm=1、d=200 (nm)、θ=0°を代入すると、λ=568
(nm)が求められます。緑色が回折光として観察されることになります。実際、弊社200nm分散液の乾燥体では、緑色の回折光が見られます。
■構造色の特徴
大きな特徴は、
(1)周期構造を持つ
(2)角度により、色が変わる
(3)周期構造が壊れない限り、色を呈し続ける
です。
(1)は構造色の基本です。層構造、粒子の配列など、周期構造を構成していることが重要です。周期構造ですから、先に示した様に2つ以上の物質が関与することになります。そして構成物質の屈折率と周期間隔で色が決まります。
(2)も先のご説明したBraggの回折条件が基本となりますので、角度依存性があります。弊社ナノ粒子分散液も単純に乾燥したものを見ると、250nm分散液の乾燥体では角度によって緑、赤が確認され、計算結果とほぼ一致します。
(3)ですが、億年の単位で色を出し続けている例があります。
古代生物にも構造色を持っていた種が存在していたことがわかっていますが、化石として構造色を呈したまま見つかっているものがあります。4億年以上前のアンモナイトには、七色に輝くものが見つかっています[4]。宝石として、大変な高値で取引されています。私も直径50cmほどの「七色に輝くアンモナイト」を見たことがありますが、その大きさ、色の鮮やかさ、さらに値段の高さに大変驚いたことがあります。
→富士宮市の「奇石博物館」に「虹色アンモナイト」として収蔵されています。
さらに今から5億年ほど前のカンブリア紀に生息していたWiwaxia(ナマコの背中に10本の刺が生えた様な生き物ですが)の体表に数百nmの周期構造が見られ、構造色を持っていたと考えられています[5]。
何億年もの時空を超えて色を出し続けるなんて、ちょっと驚きです。
[文献]
[1]パイオニア(株)HP http://pioneer.jp/bdd/blu_ray/2_01.html
[2]P. ボール、日経サイエンス、8月号、P77(2012)
[3]M. Ishii, et. al., Langmuir, 21, P5367 (2005)
[4]小倉繁太郎、大藪雅史、光学、33巻4号、P231(2004)
[5]吉野勝美、武田寛之、フォトニック結晶の基礎と応用、コロナ社、(2005)
[6]S・コンウエイ・モリス、カンブリア紀の怪物たち、講談社、(1997)
*ご検討・誤使用の際には関連特許にご配慮くださる様お願い致します。